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「ふうむ」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
と、房一はもう一度感心した。
「あいつらと来たら、すぐこれ!だからね」
その頃の宿屋には二階の便所はないので、逗留客はみな下の奥の便所へ行くことになっている。今夜も二階の女の客がその便所へ通って、そとから第一の便所の戸を開けようとしたが開かない。さらに第二の便所の戸を開けようとしたが、これも開かない。そればかりでなく、うちからは戸をこつこつと軽く叩いて、うちには人がいると知らせるのである。そこで、しばらく待っているうちに、他の客も二、三人来あわせた。いつまで待っても出て来ないので、その一人が待ちかねて戸を開けようとすると、やはり開かない。前とおなじように、うちからは戸を軽く叩くのである。しかも二つの便所とも同様であるので、人々もすこしく不思議を感じて来た。
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
「いや、どうも。恐縮です」
ふと気づくと、玄関に人が立つていた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」
徳次は足を踏ん張つて立ち、まだそこら中を見まはしていた。房一はちらりとその顔を見たが、黙つて片づけていた。
「よし!」
「ぜひ、さういふことに」
「さあ、殺せ。――うむ、え、さあ。――え、え」