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「さうだ」
我々はそれから「き」の字橋まで口をきかずに歩いて行ゆきました。……
相手が急に三人にふえたためか、柵の中の長身な男は一層興奮した。
ふと気づくと、玄関に人が立つていた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
土手に立つている男は房一には見覚えのない男だつた。神原喜作だと聞いてもすぐには誰だか判らなかつたが、やがて、それが彼の借家している鍵屋の分家の当主で、ふだんはどこかの農学校の教師をしていてめつたに帰つたことのないといふ、あの喜作だと思ひあたつた。それにしても、どうしてこんな所へひよつこり姿を現したものだらうか、冬休ででも帰つて来たのだらうか。――
気がつくと、房一はさつきよりもぽつと明い、青味を帯びた中を走つていた。いつのまにか月が出たのだ。鉄橋を渡つて、町の中に入つた。月明りはこの人気の少い町一杯に輝いて、うるんで、物の形を一様な柔い調子の中でくつきりさせていた。
今、房一の顔に現れているのはさういふ怒気だつた。ただ、それは盛子に向けられているのでなしに、房一の内部に立ちはだかり、自ら押へつけしている、それから来る圧迫感だつた。――
間もなく房一は別れを告げ、庭前で又馬の前に立つて二三の話をし、相沢の家を立去つて行つた。相沢のやうな家を患家に持つことは、十軒もの小患家を得たに匹敵すると、ひそかに満足しながら。そして、今日のもてなし方から考へると、医者として十分好意を与へたにちがひない、といふことにも満足しながら。
と、云つた。
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
と、父親の顎のあたりに又目をつけた。
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、